株式会社ヴァリューズ 山本渚(以下、山本):企業の競争力を高めていくためには、膨大なデータを適切に分析し、根拠を持ったデータ分析から課題解決へと導く必要があります。デジタル領域に強い組織としてくためにはデータドリブンな人材育成が必要となっていますが、どういった背景や課題があるのでしょうか。
読売広告社のデジタル部門のデータドリブン人材育成手法 真にデジタル領域に強い自走組織とは|MarkeZine Dayレポート
株式会社読売広告社
公開
デジタル技術の拡大に伴い、変化の激しい広告業界では人材の確保に加え、デジタルに強い人材をどのように育成していくかが大きな課題となっています。 2022年3月9日に開催された翔泳社主催のマーケティングイベント「MarkeZine Day2022春」にて、ヴァリューズと読売広告社が登壇したセッション「データドリブン人材育成手法」では、データドリブンな組織を作っていくために取り組んできた組織構築手法や、デジタル人材育成手法、若手育成の成功事例が解説されました。
スピーカー紹介
Agenda
・データドリブン人材育成が必要な「背景」と「課題」
・どのようにデジタルに強い若手を育てていくべきか
・組織づくりの「ミッション」「若手の変化」
・若手の成長力を実感した「事例」と「育成ルール」
データドリブン人材育成が必要な「背景」と「課題」
データドリブン人材育成が必要となった「背景」
株式会社読売広告社 立田真一郎氏(以下、立田):デジタルメディアの取扱高は年平均成長率で18%、コロナ禍であっても業界的に伸びています。総合広告会社の読売広告社の場合、デジタル関連比率は全体の23%と売上に対して1/4程度ですが、年平均成長率の高さから今後の伸長率に期待できると言えます。
デジタル部門の年代構成は30歳以下が7割弱と若手が多くを占め、今後もその傾向は続く構造になっています。
若手が増加している背景には以下の3つがあげられます。
■人材への早期デジタル教育の必要性
■新卒・ジョブローテーション人材の教育対応
■今後も経験の浅い人材が増え続けていく構造
以下は、総合広告会社の一般的なワークフローです。
お客様から「こんな目的で、予算はこのぐらいで計画を立ててください」と依頼がある際、広告会社は営業を含めると5つの工程を進めながら顧客へプレゼンを行っています。
上流工程には「ゼロからレールを敷設する経験値が求められるため、ベテランが担うことが多く」、下流工程には「上流工程の内容を受けて最適なものを設計する」スキルが求められる違いがあります。
データドリブン人材育成に必要な「課題」
山本:こういったワークフローには若手の人材育成を制御してしまう大きな課題があげられますが、どういった点なのでしょうか。
立田:成長性は極めて高いですが、過渡期にあるセグメントに会社として位置付けているのがデジタルです。会社の新陳代謝の観点から「デジタル=特に若手が担っていく」という意識は今後も続いていくのではないかと予想されるので、人材配置も若手を意識することが重要と言えます。
会社全体としてのワークフローはデジタルだけのワークフローになっているというより、総合広告会社としてバリューを提供しやすいワークフローになっています。
つまり、こうした環境のなかで「どのように強い自走組織をつくるのか」が論点となっています。
どのようにデジタルに強い若手を育てていくべきか
デジタルに強い人材を育成する際の「禁止事項」
立田:「データを触れる」あるいは「デジタル領域に詳しい」というだけでは、広告会社が求めるデジタル人材としては不十分です。では、いったいどういった人材が求められるのか。
それは「データやデジタルの力も使い、課題を発見し、解決できる人材」です。
人材教育にあたり、次のような言葉をかけてしまいがちではないでしょうか。
・お客様の真の課題に向き合い、戦略的なパートナーとして解決できるよう取り組みなさい(俺はそうしてきた)
・まだ若いんだから思いっきりやりなさい
・一人ひとりできることからやろう
実はこのような言葉をかけることや組織全体の考え方では、データやデジタルに強い人材育成は程遠いと言えます。どういうことなのか、詳しく紹介していきます。
人材育成にはまず「組織の力学」を理解する
立田:次の図を見てみましょう。
先述した総合広告会社のワークフローは、上記図でも左から右に流れるようになっています。縦軸は案件の規模の大きさと、タスクの複雑さ具合を表しています。
■上流工程(戦略)× 要件が複雑な場合(大規模案件)
上流工程は大規模な案件であるケースが多く、デジタル力やデジタルリテラシーを問わずどうしてもベテランの力が必要となってくるため、難易度的にも若手が簡単に参加できる雰囲気ではありません。
また、若手の主体的な参加は難しいだけでなく、「背中を見て盗め」といったような教育方法やOJTが横行してしまうのが実態です。
■上流工程(戦略)× シングルタスク/作業的な場合(小規模案件)
上流工程でも小規模案件であれば若手の参加は可能となるものの、シングルタスクで最初からゴールまでやることがある程度決まっているため、戦略的な自由度は低くなる傾向にあります。
そして、タスク型な仕事スタイルは特定の志向性ばかり養われがちのため、自ら考えるホワイトスペースが少なくなってしまいます。
こういった観点から「がむしゃらにやりなさい」「自分自身でやりなさい」と言っても、組織力学の問題があることを理解しておく必要があります。
この負のループから抜け出すことが出来ず、デジタルに強い若手人材育成が厳しい流れとなっています。
組織づくりの「ミッション」「若手の変化」
立田:動きたくても身動きが取れない組織力学問題。「組織障壁・課題こそ、データやデジタルの力を活用して突破できないのか?」という考え方が、新しい組織をつくろうとなった原点です。
デジタル人材育成に必要な2つのミッション
立田:デジタル人材の育成には、組織のワークフローを変えていくことが大切であると考えます。
そこで、
➀組織のワークフローを変える
②年齢や経験の壁を超える
の2つのミッションを掲げ、負のループの原因となっていた組織のワークフローに変化を加えてみましょう。
ミッション① 組織のワークフローを変える
立田:従来のワークフローがどのようになっていたか、再確認していきましょう。
上図のように
・経験値が求められる「マーケティング」や「クリエイティブ」の上流工程
・上流工程の最適化を行う「プロモーション」や「メディア」の下流工程
の2つは対極的な動きになっていました。
この組織のワークフローを変えるとどうなるでしょうか。
さまざまなデータを調査・分析・方針を策定する「マーケティング」は全ての工程に影響を与える第一段階と言えることから、「マーケティング」や「クリエイティブ」の上流工程、あるいはその間に若手が入ろうとしても厳しいと言えます。
そういった観点から、「マーケティング」工程の前に「新しい提供価値を生み出す何か」を作ることが出来れば、組織のワークフローが変わっていくのではと考えました。ではその「新しい提供価値」は何をするべきなのでしょうか。
それは「課題のきっかけを探すクイックなデータ分析と、戦略仮説をたてるためのデータ分析こそが価値としてあるのではないか」という結論に行きつきました。
新しい提供価値を作るための活用データソースは下記があげられます。
■SNS投稿全量データ
■G/Y検索データ
■企業IRデータ
■アプリストアデータ
■Dockpit
この中でもヴァリューズが提供する「Dockpit(ドックピット))は、250万人のパネルデータに基づいた大規模なインターネット行動ログ分析サービスとして、広告代理店やコンサル会社、マーケターを中心に利用されているデータサービスです。
ミッション② 年齢や経験の壁を超える
山本:Dockpitはワンクリックするだけで、マーケティングに必要な3C(自社・競合・市場)分析を誰でも簡単に扱えるのが特徴です。
立田:ダッシュボードは直感的なUIを採用した分かりやすいグラフのためひと目で理解でき、消費者ニーズやトレンドの把握といった詳細も可視化されます。
そのため、若手の主観的な意見だけでなく、データという強い武器を持たせることで経験や実績が必要である案件にも参加でき、発言力の増加へと繋がります。
大規模なデータ処理はハードルが高い傾向にありますが、若手でもデータの分析・考察する視点も養われていくことで、年齢や経験の壁を越えることが可能です。
ミッション後の若手の変化
立田:打ち合わせや会議など案件に参加できる機会が増えると、若手人材の参画度に変化が表れます。
≪参画度の変化レベル≫
- Level1:自分的にはおそらくこう思う (主観/意見)
- Level2:AとBを比較すると差が出ている (一面的な分析)
- Level3:Aではこう読めるが、実はBではこう(多角的な分析)
- Level4:AとBの観点から、課題Cではないか(仮説提示)
- Level5:総合的に判断しておそらくこうだ (考察/提案)
データを利用しながら参画度を高めることで、求められる人材を育成することができます。そのためには「若手でも参加しやすいワークフローづくり」や「経験や実績がなくても扱えるデータを武器にし、案件に入れる環境づくり」が重要となります。
若手の成長力を実感した「事例」と「育成ルール」
立田:「マーケティング」の前に「クイック分析・クイック提案」という新たな工程をワークフローに導入することで、スピードが求められる案件の対応力が圧倒的に向上したという良い結果も生まれました。
若手の成長が大きく表れた例として、読売広告社新卒1年目の黒田君の事例を紹介します。
若手人材による作成データ
下記2枚の図は黒田君が作成したデータとなります。
「データの分析・考察→効果検証→提案→戦略立案」という流れで案件を繰り返していくことで、新卒1年目でありながら高いレベルで案件に参画できた良い例です。
若手の成長に必要な3つの工夫
このようなデジタルに強い若手を育成していくために必要な工夫は、次の3つがあげられます。
- 分析技術
(量・率・差分の差分などで「比べる」を基本にする) - 価値基準/マインド
(正解を伝えるのではなく、考える過程を大切にする「チームの価値基準作り」) - ルール/命令
(会議では必ず発言準備をする、あるいは質問するといった「参加方針」)
まとめ
今回はデータドリブンな組織を作っていくための人材育成手法や、若手の人材育成に成功した事例が解説されました。
新しい資源であるデジタルやデータを活かしてデータドリブンな人材・組織を構築していくには、「プロセス」や「価値基準」の見直しまで視野を広げてアプローチすることが重要と語る立田氏。
業界や組織そのものの根本的なワークフローを今一度見直し、自走できる人材・組織が求められています。
当メディアを運営しているヴァリューズでは、若手でも課題や競合分析ができるサービス「Dockpit」を展開しています。細やかなデータを分析できるだけでなく、若手でも収集したデータを使って課題を挙げ、解決に向けた提案という新しい価値を与える人材に育てていくことが可能なツールです。
ご興味のある方は、ぜひお声がけください。