【食品業界向け】 AIで提案書は作れるのに、なぜ組織に残らないのか |「提案の属人化」問題

「エース営業が異動した途端、あの企業への提案が通らなくなった」。改廃と催事が年に何度も巡る食品メーカーの営業組織で、こうした声をよく耳にします。取引条件も帳合もバイヤーの連絡先も、引き継ぎ書にはすべて書かれている。それでも失われるものがあります。しかも、生成AIの導入はこの問題を解決するどころか、加速させることがあります。本記事では、提案ノウハウが組織に残らない理由をひもとき、属人化する組織としない組織を分ける3つの視点と、具体策を解説します。

引き継がれるものと、消えるもの

大手量販チェーンを10年担当してきたエース営業が、異動になりました。後任に渡されたのは、共有フォルダのパスと、数回の同行商談。取引条件も帳合も、きちんと申し送りされています。それでも、翌シーズンの改廃商談から提案が通らなくなる。何が失われたのでしょうか。

答えは、下の図の右側にあります。

あのチェーンにはカテゴリー全体の話から入ると通る。あのバイヤーは売場写真を先に見せると議論が早い。昨年の秋冬改廃で通ったのは、あの数字の見せ方だった。

こうした情報は、取引条件よりもはるかに商談の成否を左右します。にもかかわらず、どこにも記録されていない。だから、人が異動するたびに組織から消えていきます。これが「提案の属人化」です。

属人化は、マネージャーの時間から奪っていく

厄介なのは、これがベテラン個人の問題ではなく、マネージャー自身の時間を奪う問題でもあることです。

特に重いのは、2つ目の「レビューが自分に集中する」です。改廃・催事の商談期には、多くの提案書が同じタイミングで上がってきます。担当数が増えるほど、マネージャー自身が詰まっていく。

この4つのうち2つ以上に心当たりがあれば、属人化はすでにコストとして発生していると考えたほうがよいでしょう。育成やモチベーションの問題に見えていたものが、実は仕組みの問題であるケースがほとんどです。

AIは、属人化を解決しない。加速させる

ここで多くの営業組織が期待を寄せているのが生成AIです。実際、提案書の作成スピードは確実に上がっています。しかし、こんな状態になっていないでしょうか。

各メンバーが、各自のプロンプトで、各自の判断で作っている。共通の型が存在しないまま速度だけが上がるので、提案のばらつきはむしろ増えます。

そしてAIは、自社の勝ちパターンを知りません。あのチェーンの棚の考え方、昨年の改廃で通ったカテゴリー提案の組み立て、それは世の中のどこにもなく、自社の過去の提案の中にしかない情報です。基準を渡さないままAIに書かせれば、出てくるのは「どの食品メーカーが出しても成立する、よくできた一般論の提案書」になります。

同じAIでも、渡す「基準」で出力は変わる

逆に言えば、渡す基準さえあれば、出力は変わります。

AI活用の巧拙を分けているのは、プロンプトのテクニックではありません。「自社にとって良い提案とは何か」が言語化されているかどうかです。属人化は、能力の問題ではなく、基準の不在なのです。

属人化する組織としない組織を分ける「3つの視点」

では、両者を分けているものは何か。整理すると、3点に集約されます。

以下、それぞれについて、属人化している組織とそうでない組織の違いを見ていきます。

視点①:提案書の在り処 ― 価値は「ページ単位」で決まる

食品業界で見落とされやすいのが、価値は「ファイル単位」ではなく「ページ単位」で決まるという点です。昨年の秋冬改廃で通ったのは提案書全体ではなく、その中の1枚、カテゴリー動向のグラフ、売場展開図、棚効率の試算表かもしれません。ファイル名からその1枚に辿り着けない状態では、探せないのと同じです。

視点②:レビュー基準 ― 何をもって「バイヤーに通る提案」と判断しているか

主観の言葉を、YES / NOの問いに変える

基準の不在は、連鎖を生みます。基準がない → 「通る提案」を自分にしか判断できない → 改廃期にレビューが自分へ集中する → 担当数増えるほど自分がボトルネックになる。メンバーの育成問題に見えていたものは、実はマネージャー自身の稼働問題でもあります。

言語化のコツは、図の左側にあるような主観的な形容詞を、右側のようにYES / NOで答えられる問いに変えること。右側の文は、そのままレビューの確認項目になり、AIへの指示にもなります。

視点③:勝敗の理由 ― 食品業界には「型を育てる周期」がある

ここで、食品メーカーの営業組織には有利な条件があります。改廃と催事という、明確な周期があることです。

春夏・秋冬の改廃、中元・歳暮・年末年始の催事。年に何度も、似た構造の提案を、複数のチェーンに対して行います。つまり、勝敗を記録して型を更新するサイクルを回す機会が、他業界より圧倒的に多い。1シーズンごとに型が育つ構造になっています。逆に言えば、記録しないまま毎シーズンを消化すれば、失われる学習機会も他業界より多いということです。

まずは、自組織の現在地を確かめる

3つの視点のうち、どこから手をつけるべきかは組織によって違います。下図は、3領域について5つずつ、計15の確認項目を挙げたものです。

当てはまるものが少なかった領域が、優先して着手すべき領域です。まずは自分の組織がどこで詰まっているのか、目星をつけてみてください。

30分で始める、基準の言語化

属人化の話をすると、多くの組織が「教育とツールが足りない」と解釈します。しかし先に必要なのは、「良い提案」の要件を言語化することです。教えるべき型がないので、教育そのものが個人技になってしまう。

とはいえ、基準づくりに何ヶ月もかけては本末転倒です。30分で始められる手順があります。

ポイントは、ゼロから基準を作ろうとしないこと。すでに自分がメンバーに言っていることの中に、基準の原型があります。過去のレビューコメントをAIに読ませ、繰り返し現れる指摘を3つ抽出させる。それをYES / NOで判定できる形に整えれば、それが自社の基準の第一版です。STEP1と2は、明日の1on1からでも始められます。

まとめ:仕組みで解くべき領域を見極める

属人化の解消は、3点すべてを一度に整える必要はありません。

② レビュー基準は、いま挙げた通り、明日からでも人の手で始められます。一方、① 提案書の在り処と③ 勝敗の記録は、運用ルールだけで解決しようとすると、多くの組織で数ヶ月後に形骸化します。「必ずここに保存する」「商談後に必ず記録する」というルールが守られ続けた組織を、あまり見たことがありません。ここは仕組みで解くべき領域です。

エース営業が異動しても、翌シーズンの提案品質が落ちない組織へ。まずは、自社の現在地を確認するところから始めてみてください。

本記事の最後で触れた、「仕組みで解くべき領域」。① 提案書の在り処と③ 勝敗の記録を、運用ルールに頼らず解決するのが、弊社の提案ナレッジシェアクラウド「Pitchcraft(ピッチクラフト)」です。

社内に散在する提案資料をAIが自動整理し、スライド1枚単位で検索・再利用が可能に。「昨年の秋冬改廃 × GMS向け」のカテゴリー動向ページが数秒で見つかるため、探すより作ったほうが早い、という状態がなくなります。導入企業では、資料作成工数が約30%(1人あたり月15〜16時間)削減された実績もあります。

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八木琢磨
八木琢磨

2023年にヴァリューズに中途入社し、データマーケティング局に所属。広告代理店やコンサルティングファーム、メディアを中心に独自データを活用したマーケティング戦略立案を支援。

現在は、営業AX推進チームに所属し、提案ナレッジシェアクラウドPitchcraftを主軸とした、営業力・提案力強化に向けたAI活用支援を、事業会社・パートナー企業問わず担当。

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