連盟紹介(一般社団法人広島県観光連盟(HIT))
スピーカー紹介
広島県観光連盟のマーケティング戦略とDX
一般社団法人広島県観光連盟 山邊昌太郎氏(以下、山邊氏):「広島県観光連盟は広島県の観光を推進する立場にあります。
一例では、昨年末、東京地区で目にされた方もいらっしゃるのではないかと思うのですが、「ばかたれーっ!!」というキャッチコピーが印象的なポスターの掲示を行いました。このような大きな取り組み以外にも、広島の観光地をいかに魅力的に創造していくか、また、Wi-Fiや公衆の手洗いといった身近な受け入れ設備をどう整備していくかというところまで、対応する事業は多岐に渡っています。
実はこれまでの観光連盟・観光施策というのは、どうしてもプロモーションに大きく軸足を取られがちだったのですが、昨年から方向性を大きく転換しました。
ポイントは2つ挙げられます。
まず1つ目は「リピートされる観光地作り」です。
私がこの仕事に就いて大変驚いたのは、観光事業においてリピートという概念があまり無いことでした。私の過去の事業ではリピートの上に新規をのせていくという概念が基本でしたが、それがこの観光業界では構造的になかったのです。とは言え、もちろん毎年新規のお客様だけで事業が継続できるはずがありません。そこで、いかにリピートされる環境を作るかが大きなポイントだと認識し、我々はプロダクト、いわゆる観光目的をしっかりと作っていくということについて大きな取り組みを始めました。
「100万人が集まる観光地を1ヶ所作るよりも、1万人が熱狂するような観光地を100ヶ所作る」
これを「ロングテールの観光地作り」と呼び、多様性の時代に多様性でお応えするといった観光地作りを目指しています。
2つ目が「お客様を十分に理解する」ということ。
1つ目のポイントを実現させるためには、お客様の思考や期待値というものをしっかりと理解しなければ、ご満足頂けるものを作り上げることはできません。これは当たり前のことです。しかし、今まで我々がお客様の期待値を十分に把握できていたかと問われれば疑問が残ります。
この部分の改善に、今回、DMP構築も含めてデータを集める、あるいは、アナログのデータを含めてお客様を理解する取り組みを強化していくことになりました。そのためにカスタマーマーケティングという組織を発足。お客様のことをより理解し、戦略に役立てていく取り組みを専任で担当する部隊を作りました。これが我々の大きな2つの戦略です。」
戦略推進のためのDMP構築とデータ活用組織作り
株式会社ヴァリューズ 和田尚樹(以下、和田):「ヴァリューズでは、広島県観光連盟様がよりDXを自走する事ができるような取り組みとして、DMP(Data Management Platform)を構築させて頂きました。
DMPは利活用される事が何より重要と考えます。DMPという箱を作ったというだけでは意味がありません。使われない箱を作るのではなく「使える」という事を一番大事に考えて構築しました。
そして「使える」というのは、DMPという箱の機能・性能だけではなく、使う側にもモチベーション高く活用して頂けるということ、データの中身をよく理解していて頂けるということも含まれると考えます。
そこで、DMP構築と並行したデータ活用組織作りも大変重要と考えます。
広島県観光連盟様では、データを見る技術向上のサポートも対応させて頂いています。また、こまめにコミュニケーションを取り、伴走しつつ、アジャイル的な開発を大切にしています。」
DMP構築の進め方について
DMPの構築概要
和田:「DMPは2種類構築しました。「公開DMP」と「非公開DMP」の2つです。
「公開DMP」では、観光庁オープンデータ・広島県観光動向調査調査など公開しても問題のないデータをTableau Publicで共有しています。
このデータによって、観光庁オープンデータを使った観光連盟内業務の効率化などが可能になっています。(画面については、図:公開DMPの例①参照)
一方で「非公開DMP」は宿泊者数・訪問者数といった独自ヒアリングデータなどの非公開データをTableau Onlineを用いて観光連盟内で分析に活用しています。」
Tableauについて
■Tableauとは?
Tableauは、データ前処理、可視化、共有が手軽に行うことができるBIツール。本稿では、習熟することでモダンなデータの取り扱い方が身につくツールとして紹介。
和田:「ExcelとTableauの違いを簡単にまとめると、Excelは自由度が高い反面、業務が俗人化しやすいと言えます。一方、Tableauではグラフの組み替えが簡単ですが、使い始めにはデータの前処理が必要なため、初めての方にはとっつきにくいという印象があるかもしれません。
広島県観光連盟様はじめ、多くの企業様でも未だ紙文化であるところが多く、また紙をExcelに移行したケースが多くあるかと思います。しかし大量のデータを扱うのであれば、長所・短所含めて、Tableauは非エンジニアが本格的にデータを扱うために始めやすいツールと言えます。」
和田:「データ分析のフローを大きく「収集」「整備・蓄積」「可視化・共有」の3つに分けると、それぞれのフローに適したデータの形態がある事がわかります。形をすぐに変えられるところでデータの利点の差が出てきます。
例えば、データ収集に使われやすい「ワイド型(=紙と同様)」ですが、ワイド型でデータを保持すると縦横の2方向にメンテナンスをする必要が生じます。
一方ロング型でデータを保持すれば、付け足し更新だけに専念できるという利点があります。
Tableauはロング型から可視化することが得意なツールです。」
和田:「Excelの自由度は魅力的ですが、紙ベースでのフローの煩雑さと同等の工数過多に陥りやすいとも言えます。一方でロング型のデータに変更し、Tableauを活用したことで工数が軽減したという例も耳にします。
このようなことから、Tableauは習熟さえすれば自然と推奨されるデータ管理ツールになり得ると言えるのではないかと思います。業務フローに無理がないことでより長く利用され、結果、蓄積データが資産化してゆくとも考えられます。」
データ活用組織作り
デジタル化(DX)における課題
和田:「DMPの構築方法についてご説明をしてきましたが、いざDMPを構築したものの、広島県観光連盟様がDXの自走ができなければ何の役にも立ちません。そういった意味では、組織管理、例えば、BIツールのトレーニングやワークフローの整理なども重要かと思います。
一般論となりますが、うまくデジタル化が進んでいない大きな要因として、3つの項目の連鎖に陥っている状況が考えられます。
1つ目は「基幹ITシステムの老朽化・肥大化」、2つ目は「ベンダーへの依存関係」、3つ目は「デジタル化を進められるIT人材の不足」が挙げられます。
これらの3つの項目が悪循環となって、デジタル化の推進が妨げられているのではないかと考えます。このような悪循環をなくすためにも、トップダウンでなくボトムアップ、まずは社内にきちんとわかる人材を作っていくことが大事だと言えます。」
自立してデータ活用していける組織とするために
和田:「組織へのDXの啓蒙として、座学だけでは浸透が進まないと考えます。そんな場合には「必須業務に組み込んでモチベーションを沸かせる」のも手だと思います。
また、「請負側、依頼側に分かれる」のではなくて、ワークショップ形式でより効率的に動ける方法を一緒に考えるという方法もあるかと思います。1つの例として、Slackや Teamsなどのツールを利用してコミュニケーションを図る方法も有効と言えるでしょう。」
まとめ
和田:「繰り返しとなりますが、DMPは構築だけで終わらせず、自走する組織作りも並行して行わなければ、ビジネスとしてデジタル化は成立しないというところが重要と言えます。そのために我々は、DX化の浸透から業務の効率化に繋げられ、よりクリエイティブな部分に注力できる組織作りまでをアシストしたく思っています。
最後になりますが、山邊様に広島県観光連盟として抱く今後の戦略や、ヴァリューズへの期待などを教えて頂けますか。」
山邊氏:「一貫してお願いしている前提にあるのが、データはツールであって、その先に本当に目指すものがあるということです。
旅、というものがこのコロナ禍で当たり前のものではなくなっています。例えば、毎年旅行に行っていた人が行けなくなっている今、旅が別の手段や別の楽しみと比較されるような存在になっています。そうやってお客様の思考・価値観が瞬く間に変わっている中、その変化に我々がアジャストしなくてはビジネスが成り立たないという危機感を常に持っています。
そこでデータが必要となってくるのですが、そのデータを四苦八苦しながら集めるよりも、手早く集めて簡単に誰でもが見られるようにしたいというのが当たり前な本音ですし、本質的に試行錯誤を繰り返さなければならないところは、アジャイル型でトライ&エラーしながら進めていくべきだと考え、DXを推進しているところです。
しかし我々の能力だけだとなかなか難しいところもあります。従って、大きな目的やゴールを共有させて頂きながら、その手法・手段をヴァリューズの皆さんの力をお借りしながら解決していけることを期待していますし、我々も精力的に取り組んでいきたいと思っています。」
和田:「データ活用自走組織と呼べるように、データを扱える人がより多く増えるとか、主体的に利活用できる人が出てくるといったことがまずは大切ですよね。」
山邊氏:「そうですね。それは私達の組織だけじゃなくて、観光に関連する市町の人たちや事業者の方々にもDXに関するナレッジが高まれば、広島県全体として取り組めることは確実に増えるはずだと思っています。
また、我々自身だけが突出すれば良いわけではなく、観光業界全体としての素養が押し上げられることも重要だと思っています。そのためにこういった取り組みをすることは、大きな意味があるのでないかと思います。」