コロナ禍でオムロン ヘルスケアが推進したEC市場拡大 ~ EC市場を横断的に分析し、潜在顧客を可視化するデータ分析手法とは
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オムロン ヘルスケアのウェブマーケティング戦略課題
オムロン ヘルスケア株式会社 吉岡瑞樹氏(以下、吉岡氏):「まず、オムロン ヘルスケアのWebマーケティング戦略課題についてご説明します。要約すると3つのポイントから構成されます。
1つ目は、本日ご紹介する、ヴァリューズ社と取り組ませていただいた、「潜在顧客・顕在顧客の可視化」によってお客様を深く知るということです。
2つ目は、買いに来て頂いたお客様に対する「売り場での販売戦略、コミュニケーション改善」。
そして3つ目、これは皆様もよく悩まれるところかと思いますが、「フロー型からストック型へ」。これは実際に購入頂いたお客様とその先どのように継続的に繋がっていくかという構造的な課題です。この3本の柱の課題解決が重要であると考えています。」
株式会社ヴァリューズ 和田尚樹(以下、和田):「1つ目の課題「潜在顧客・顕在顧客の可視化」においては、ヴァリューズのWeb行動ログデータを使って分析させて頂きました。」
戦略課題を解決するデータ分析の手法
ユーザーの検索行動からECサイト購買に至るまでを可視化
和田:「どのような分析を行ったのかご紹介します。
まず、Web行動ログデータ分析を使って、例えば、AmazonやRakuten、PayPayモールなどのECモールの中で、ユーザーがどんな商品をどのように検索して商品を購入しているのかを可視化します。
さらに、購入したユーザーの購入前の検索行動を遡り、どのようにして商品の情報を調べていたのかという検討行動に着眼し、「キーワード分析」を行いました。
例えば前述の「どのように購入したか」を分析することが、顕在層の分析に役立ちますし、後述の「購買前のきっかけ」を探ることで、潜在層の定義に繋がると考えました。」
データ分析の鉄則
和田:「まずは顕在層の分析からご説明します。
データ分析する上で施策に落としやすい方法として、「何かを比較する分析」という手段が挙げられます。」
顕在層の分析
和田:「顕在層の分析では、競合や過去との比較などを通じて、劣位があれば、そこが差分による伸ばし分となり得るため、「劣位の解消」という点が施策になります。よって、市場があり、競合劣位があるところに改善余地があると考え、価格帯・商品カテゴリ・流入経路で余地を分析するという方法を選択します。
例えば、各モール内でオムロンと他メーカーごとのシェアを比較し、商品セグメントごとのシェアや集客状況の比較から、施策の伸びしろを横串で分析した事例がそれに当たります。
実際に「血圧計」をターゲットに調査を行った結果、どのモールでもオムロン社が8割を占めるという結果に。ここでは重大な劣位の差分が、現在の顕在層では見当たらなかったのですが、その点はいかがでしたか?」
吉岡氏:「我々側でも全体的なシェア状況は把握しているのですが、今回分析して頂いたことで、各モールのセッション数・コンバーション数・売上まで見ることができました。各モールでの差分が見つけられたことは、そこに改善余地があると考えられます。」
潜在層の分析
和田:「現状、購買層を大きく占めているオムロン ヘルスケア社の顕在層。各ECでの差分は発見できたものの、その他大きな劣位の差分が見当たらなかっただけに、これは潜在層に真摯に向き合う必要があると感じました。
そこで用いたのが「キーワード分析」です。検索キーワードデータはユーザーの意図が表現されやすいため、EC購入したユーザーのログデータを遡り、その購入のきっかけを分析しました。
今回は「血圧計」を購入された方にフォーカスし調査を実施しました。
ECサイト内での購買を促していく施策を検討していたので、当初はECサイト内のその他購入商品を使って潜在ユーザーを分析しようと試みたのですが、商品から購入の意図を探るのが難しく最終的にキーワードでの分析にしました。
血圧計は40~50代の男性の購入が多いのですが、血圧計購入者の特徴を捉えたものなのか、40~50代男性の特徴を捉えたものなのか、いずれの判別が難しく、戦略を描く上でわかりやすい結果にはなりくいものでした。そこで、ユーザーの意図を判別しやすいキーワードを使った分析を行うことにしました。」
和田:「下図にキーワード分析のサンプルの一例を掲載しました。
購入1ヶ月程度前は、自覚症状、健康診断の項目、歯や腎臓といった漠然とした検索をしています。
それから順を追って見ていくと、より体調不良に関する緊急度が増したと思われるような、ドライアイ、動悸といった具体的なキーワードが並び、購入1週間前には、さらに絞り込まれた症状の検索や様々な健康器具の検索がされていました。そして購入直前に「血圧」というキーワードが表れ、結果、「血圧計」を購入しています。」
吉岡氏:「このような検索行動の末に、最終的に「血圧計」をECで購入するところへたどり着くのですが、一体どこでどんな行動変容をして「血圧計」にたどり着いたのか、という道筋が正確にわからないと、有効な広告活動に繋げられません。
また、急に疾患名を検索し始めたきっかけも何か理由があるはずです。そういったことも含め、このキーワードの時系列を見て探り出す必要があるのではないかとチームで考えました。」
購入に至るきっかけ(モデルケース)
和田:「最終的には、ばらつきを整えキーワードをクラスタリングしました。そして、ユーザーのパターンを調べ、ミクロな視点からきっかけを具体的に探り、ユーザーカルテのようなものを作成しました。それを元にディスカッションを重ねた結果、大筋の潜在層のきっかけやユーザーモデルと言えるような姿が見えてきました。」
オムロン ヘルスケアにおけるデータ活用の視点
吉岡氏:「お客様を知るときに、実際お客様がどういう購買行動をしているかを可視化するのですが、まずはマクロな視点でシェア状況を見ながら、その奥にどういう情報があるのかという点をミクロな視点で見るようにしています。」
マクロな視点での分析
吉岡氏:「具体的には、市場構造の可視化・購入者の属性把握・サイトへの接触などをまとめながら購入者をクラスタリングします。しかし、実際、このようにクラスタリングまでしても、その先に一体何があるのかは、あまり分からなかったということが現実でした。」
ミクロな視点での分析
吉岡氏:「苦慮していた「その先」を見る術でしたが、ヴァリューズ社とのWeb行動ログを用いたミクロの分析では、非常に有益な一例を見ることができました。
一例となったユーザーの行動の流れを説明すると、「偏頭痛」をきっかけに「蜘蛛膜下出血頭痛」を検索し、「血圧」という記述のあるサイトに接触したことがわかりました。
ここで「血圧」に関する記事に触れたことが態度変容のきっかけ、いわゆるトリガーとなって、Amazonでオムロンの血圧計を購入したのだと推測できました。
この分析結果を見て、今までは態度変容に至ったトリガーをしっかり可視化できていなかったと認識しました。しかし、こういった態度変容こそ認識していないと、マーケティング戦略はなかなか上手く進みません。そういった意味で非常に重要な施策に繋がる分析事例だったと実感しています。」
吉岡氏:「まとめると、何らかのきっかけがあって情報収集し、それが態度変容して、問題解決の行動としてデバイスを購入する、薬に頼る、生活改善をするといった流れがあると考えます。私達はこの流れをいかに作れるかだと思っています。
簡単に言えば、いかにして我が社の製品を純粋想起させられるかというところが、今後の私達の活動のベースになるのではないかと思っています。例えば、疾患啓発も始めながら、どうやったら純粋想起に繋がるか。今回ヴァリューズ社との取り組みの中で、それらが可視化できたという結果は大きな意義がありました。」
まとめ 〜 伴走するデータ分析パートナー〜
和田:「今回のミクロな視点での分析というのは、発注する事業者側と依頼を受託する我々側といった分かれた形でそれぞれを見るのではなく、パートナーとして一緒にデータを見ていけたという取り組み方が良かったと思っているのですが、どうでしょうか。」
吉岡氏:「こういった分析をする時、我々事業者側もお任せしたままで、いざ出てきたものに対して示唆を出すといったケースが多い中、今回は設計の段階からご一緒させて頂いたことで、結果、我々が求めている情報がしっかりと取れ、非常に大きな成果が出せたと思っています。」
和田:「ヴァリューズは伴走型の分析とでも言うのでしょうか、ご依頼主の事業者様と細部にわたってご一緒にさせて頂くことが多いので、レポートやアウトプットで何かしらを理解して頂くだけということは少ないと自負しています。
向き合って頂いて、一緒に何かに気づいて、実際のデータが見たいと思わせるような流れを作らないと、腹落ちした結果というか、本当の満足には至らないのではないかと考えています。
今回ミクロのデータまで共に見て頂いたことは、我々としてもありがたく感じています。正しくあのデータが伝わったという意味でも。」
吉岡氏:「ご依頼して、すぐにも繰り広げられた熱の帯びたディスカッションの際に、このデータは実に有益だと実感したタイミングがあったんです。
繰り返しになりますが、やっぱり一緒にデータに向き合えたからこそだと思っています。このような成功体験を共にすると、「分析はここまで。ここから先は広告のプロへ」、とはいかなくなってしまいそうですね。出来れば一気通貫でやってみたい、そんなことも感じさせてもらいました。
データ分析のプロとの「もう一歩先の関わり方」というのも考えさせられました。」
和田:「ありがとうございます。この続編がこのような機会のもとでまた発信できるようになれば、我々も大変嬉しいです。」