スピーカー紹介
「線」で捉えるカスタマージャーニーの必要性
株式会社ヴァリューズ 伊東茉冬(以下、伊東):「まずは、花王様におけるDX推進の背景について、お話いただけますでしょうか。」
花王株式会社 稲葉里実氏(以下、稲葉):「花王は、2021年にDX戦略推進センターを設立いたしました。設立の目的はいくつかありますが、花王ならではの強みや先端技術を掛け合わせて、これまでの生活者の体験を変えるような新製品を開発することや、マーケティングの付加価値を創造することなどがあります。
私が所属しているカスタマーアナリティクス室では、花王の事業プロセスをデータドリブンにするあらゆる活動を行なっています。
データの収集から分析、ダッシュボードを使った可視化を通じて、ブランド戦略の提案や、商品開発のためのフィードバック、そしてプロモーション施策立案につなげていくなど、マーケティングのあらゆる部分にデータのスペシャリストとして参画することがメインの業務となっています。」
伊東:「データ活用を推進していく上で、何か課題点などは感じていらっしゃいますか。」
稲葉:「これまで購買データやSNS・口コミのデータは分析していましたが、購買に至る前の興味・検討部分のデータを保有しておらず、購買までのカスタマージャーニーの全体像が見えていなかったことが大きな課題と感じていました。
また、迅速に生活者や市場を理解してアクションを起こす、というスピーディさに欠けていたと感じています。」
伊東:「SNSなどでスポットでの情報を集めても、顧客がどのように情報収集をし、どのポイントで態度変容が起きて購入に至ったのかは、なかなか理解が難しいですよね。」
稲葉:「そうですね。顧客を中心にしたデータドリブンな取組みを目指しているので、施策検証・自社EC改善など、それぞれの課題に向き合う「点」でのアプローチに課題があったと思っています。生活者のストーリー全体をデータで把握する「線」でのアプローチが必要だと強く感じています。」
story bank活用事例:クラスタ分析
伊東:「顧客体験を「点」ではなく「線」で理解するといった観点で、ヴァリューズのDockpit ・story bankといったWebツールをご利用いただいている花王様ですが、それらの活用事例についてお話ください。」
稲葉:「マーケティング施策検討・商品開発のシーンで顧客理解が必要なため、特に全ての始まりであるゼロ次分析で、Dockpitやstory bankを活用しています。
顧客が求める生活価値の探索、集客構造の把握、ブランド担当者とのマーケティング戦略検討といった幅広い場面で、スピーディに顧客理解ができるようになりました。
それでははじめに、story bankのクラスタリング分析を活用した事例をご紹介します。
こちらは「歯磨き」を検索する方をクラスタリングしたものですが、興味関心を俯瞰できること、人をグルーピングして深堀りできるところが便利です。
グループごとの属性もわかるので、クラスタ分析を回した瞬間に、ターゲットとなるペルソナ分析ができたかのような結果が得られます。
どのような生活者がいて、各ターゲットにどんな施策を実施するのか、戦略と戦術の両軸で考察することが出来る、素晴らしい機能だと思っています。」
伊東:「こういった商材についての分析結果というのは、カスタマーアナリティクス室とブランド側とで、一緒に見て議論するという形を取られるのでしょうか。」
稲葉:「そうですね。日頃、我々カスタマーアナリティクス室だけで動くということはなく、必ずブランド側の課題を一緒に理解した上で、どう顧客理解を深めようかと検討しながら進めています。
また、そういった時にDockpitやstory bankを使う一つのメリットとして、打ち合わせのタイミングでデータが引けることで、議論の進み方が圧倒的に早まり、そこにもとても満足しています。」
Dockpit活用事例:検索トレンド・流入ページ分析
稲葉:「続いては、Dockpitの検索トレンド分析機能を活用した事例をご紹介します。
最近、化粧品業界でも話題になっている「メンズメイク」ですが、実際はどのような状況なのかということを確認する作業に活用しました。
一番左のグラフを見ても、じわじわと検索数が増加しているのがわかります。ここから、増加している時期にどんなことがあったのか、増加の要因を深掘りしていきました。
男性と女性で検索者を分けると、トレンドが全く違うということも興味深い点でした。」
稲葉:「そこで、男女間における違いについて探るために活用したのが、流入ページ分析機能です。
例えば男性は「バレないメイク方法」といったメイクに役立つ実践的な情報を検索していることが多いのですが、女性は「僕がメイクを始めた理由」といった、実用というよりも男性の心理面に興味を持っているということがわかります。
このように、検索後にユーザーが流入したページまで分かるので、生活者が関心を持つポイントに直接結びつけることができて、非常に大きなヒントになります。」
稲葉:「こちらはDockpitの類似ワード機能を活用した事例です。
私たちはこの機能を特に活用しています。生活者が探索するキーワードの幅を広げたり、特定のキーワードにどのようなイメージを抱いているかを知ることができます。
例えば「丁寧な暮らし」というキーワードを検索すると、「ミニマルライフ」や「シンプルな暮らし」というよく聞くワードの他にも、「自分を大切にする」といったワードが現れました。このことから、「丁寧な暮らし」というキーワードには「自分を大切にする」という生活者の願望も隠れているのではないかという発見につながりました。
このように、ブランドが掲げる重要なキーワードに対して、生活者がどのような価値観を抱いているのかが見えてくるという点で、新たな気づきにつなげてくれる大変面白い機能だと思っています。」
データに翻弄されない顧客分析のコツ
伊東:「ここまでデータの活用事例をいくつかご紹介いただきましたが、実際にデータを見ながら分析をしていく、顧客理解をしていく中で、大切にされていることや注意点についてお伺いできますか。」
稲葉:「データを通じた顧客理解を行う上で注意すべき点として、3つご紹介します。
1つ目は、すべてのデータには条件があり、何かしらのバイアスがある点を忘れないことです。データの取得方法によるバイアスに翻弄されず、データの分析結果を正しく読み解き、生活者の本音にせまることを意識しています。
2つ目、何を実現するためのデータ分析なのか、目的をしっかりと見極めた上で仮説や手法を組み立てるということが重要だと思っています。
そして最後の3つ目が、私個人としては一番大事なポイントだと思っているのですが、日々の生活で、同じく生活者の1人である自分自身の感情や違和感を敏感に捉え、データを読み解く視点を磨くということです。
単純にビッグデータを分析しても新しい発想は生まれないので、チーム全員でこの能力を高めていけるよう頑張っています。」
伊東:「この件について、最近の出来事で気づきがあった具体的な例があれば教えていただけますか。」
稲葉:「個人的な話なのですが、10年以上も愛用していたアイブロウを変えたことです。かなり愛着を持っていた商品だったのに、なぜガラリと変えることができたのか、自分の感情の部分を分析しました。」
伊東:「確かに、年を重ねていくと自然と自分の中の定番が固まっていくにもかかわらず、どうして突然変えようと思ったのか、分析してみるというのは面白そうですね。」
DXの目的は、デジタル化でなく変革
稲葉:「花王のDX戦略推進センターのカスタマーアナリティクス室では、D(デジタル)とX(トランスフォーメーション)において、後者の「変革を起こす」ということの方が圧倒的に重要だと考えています。
顧客体験を変革し、生活者のリアルな行動や声からスピーディに価値を発見することで、顧客を中心としたデータドリブンなマーケティングを実行して参ります。」
伊東:「本日は貴重なお話をありがとうございました。」